辰吉丈一郎と熱狂と

ボクシング

少年時代~青年時代にかけて、私は辰吉丈一郎のボクシングに熱狂していた。おそらく抜群のボクシングセンスに惚れたということではなく、人間辰吉丈一郎が醸し出す特異な雰囲気に惹かれたのだと思う。私が初めて辰吉を見たのは、世界初挑戦となったリチャードソン戦である。経験豊富なベテラン、リチャードソンを相手に試合を優位に進め、最後は連打で戦意喪失に追いやった見事なボクシングだった。当時の国内最短記録であるプロ8戦目での世界タイトル獲得ということで、その後の活躍を信じて疑わなかったことを覚えている。しかしここからの辰吉のボクシング人生は波乱万丈なものとなっていく。眼の異常で長期ブランクを作ってしまうと初防衛戦ではラバナレスの前に良い所なく圧倒され、TKOで敗れてしまった。最後は滅多打ちに合い、セコンドからタオルが投入されるという完敗だった。それでも約10か月後の再戦では判定で勝利し、再度世界王者の座を奪還することに成功する。しかしその後左目の網膜剥離が判明し、当時のルールでリングに上がることが出来なくなってしまう。普通ならここで辰吉のボクシング人生は終わってしまうのだが、本人の強い思いと所属ジム、支援者の支えもあり、リングに復帰すると薬師寺との世界タイトルマッチにこぎつけることに成功した。
薬師寺戦は伝説の世界戦である。試合前から両陣営の舌戦が続いたのだが、その中心にいたのは紛れもなく辰吉本人だった。ビッグマウスで挑発を続け、世間からの注目度は嫌が上でも高まっていった。正直辰吉のボクシングセンスがあれば、薬師寺は辰吉の相手にならないのでは?という評価もあり、私自身も辰吉に肩入れして試合観戦をしていた。序盤から激しい打ち合いとなったのだが、中盤以降試合を支配したのは薬師寺の方だった。後日談として辰吉が左手を骨折していたということが分かるのだが、薬師寺の冷静なボクシングが光った好ファイトだった。
この時点で辰吉の存在は一ボクサーの域を超える存在となっていた。薬師寺戦後も現役生活を続けることになり、もう1つの伝説の試合となるシリモンコン戦につながっていくのだが、今冷静になって考えてみると辰吉の見事なボクシングを見ることが出来たと感じる試合はほとんどなかったと感じる。ラバナレス戦も薬師寺戦もサラゴサ戦もウィラポン戦も終わってみれば相手を引き立てる役で終わってしまった試合も多かったと感じる。それでも私は辰吉に強く惹かれたし、私以外にも当時そういった心境で応援していたファンは数多くいたと思われる。

私の中では「やんちゃなお兄さん」、「怖そうなお兄さん」というイメージから入っているのだが、頭の回転の速さやボクシングへの一途な思いなどがストレートに伝わって来るボクサーだった。一人のボクサーの試合に多くの人たちが熱狂する。辰吉の試合の雰囲気は独特だったし、異様だった。そんな雰囲気の中でボコボコに殴られ、瞼を大きく腫らした姿を何度も見てきた。それでも諦めずにリングに上がり続ける姿も何度も見てきた。しかし世界戦になると打たれ続ける姿を見て、タイの若きチャンピオン、シリモンコンには勝てるはずがないと思っていた。それでもテレビにかじりつくように夢中で観ていたのだが、そこで奇跡が起こった。死角はないと思っていたシリモンコンからダウンを奪うとその後逆転されかけるピンチはあったものの必殺の左ボディブローでダウンを奪い、シリモンコンをレフェリーストップに追いやってみせた。その瞬間の熱狂、狂熱は凄まじいものがあった。私もこの瞬間は皆と同じように熱狂していた。

世界トップレベルのボクシングを見ることが出来たのか?と聞かれればおそらく答えはNoなのだと思う。辰吉の潜在能力からしたら残した実績も期待値からは物足りないものなのかもしれない。それでもやっぱり辰吉は凄かったと伝えていきたい。今の若い世代の人達に辰吉の凄さを伝えるにはどういった言葉で伝えれば良いのだろう?とても難しいのだが、男として憧れるものを身にまとった時代のトップランナーだったという曖昧な説明になってしまう。これだけファンを熱狂させるボクサーも早々お目にかかれるものではない。やはり凄いボクサーである。

P.S 今日の記事は上手く整理して書くことが出来ませんでした。本当は辰吉が世界戦のリングに上がっていた時代の熱量を伝えたかったのですが…難しいですね。

にほんブログ村 野球ブログ 東京ヤクルトスワローズへ
にほんブログ村




コメント

  1. タラちゃん より:

    辰吉ね。
    リチャードソン戦が1番結果的には良かった試合になるのかな?
    たしかに言われている通り、そのあとケガとか打たれても打ち返すスタイルもあって、どうしてもケガとか多かったので、もっと良いコンディション。ディフェンスを重視したスタイルだったらどうなっていたのか?気にはなるところね。

    薬師寺との日本人対決はすごく盛り上がったな。と。
    あの時、薬師寺側、名古屋の放送局、スポンサーなどすごく力入れて、辰吉側よりも高額払い、名古屋開催にこぎつけたなと。
    そして薬師寺って引退するまで1度もダウン喫しなかった数少ない選手なタフな選手だったわけだし、良い試合を見せてもらったなと。

    ただ、辰吉の試合を見て、ボクシングをはじめた、2階級で世界チャンピオンにもなった畑山もいたり、ファンはものすごく多かったですし、ああいうボクシングスタイルは見た感じからしても人気出やすいですもんね。

    今後、
    親子で世界チャンピオンになれるのか?
    そのあたりすごく気になるところですね。
    そして日本人対決ですごいビッグマッチ見れるのか?気になるところです。

  2. FIYS より:

    > タラちゃんさんへ

    眼の負傷がなければディフェンス面でも魅せられるようなボクサーになれたかもしれませんよね。素晴らしいフットワークも持ち合わせていましたからね。薬師寺戦は日本中が注目するイベントになりましたからね。熱量が凄かったですよね。

タイトルとURLをコピーしました