記憶に残る名実況ってありますか?

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スポーツをテレビで観戦する際に欠かせないのがアナウンサーの実況である。スポーツの名場面は、その後もテレビ番組などで繰り返し放送される。その都度実況もセットで放送されることが多い。私自身、普段は実況というものを当たり前のものとして捉えているため、記憶に残る実況というものはそれ程ないのだが、後から振り返ってみると「とても印象的だったなあ。」と感じる実況がいくつかあるものである。個人的に記憶に残っている名実況を振り返っておきたい。

2004年アテネオリンピック 体操男子団体決勝
刈屋富士雄アナ
「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だー!」

・鉄棒の最終演技者富田選手の着地の際に刈屋アナが発した言葉である。富田選手の着地が決まり金メダルがほぼ決定的となった場面を見て、私も大いに興奮したことを覚えている。アテネオリンピックのNHKのテーマソングがゆずの「栄光の架橋」であり、刈屋アナもある程度は準備していた言葉だと思うのだが、これほど実況とアスリート、視聴者の気持ちがマッチした実況は中々ないのではないだろうか?歴代のオリンピックの中でも屈指の名場面である。

1998年長野オリンピック ジャンプラージヒル2回目
工藤三郎アナ
「さあ、原田、因縁の2回目」、「立てー、立て、立て、立ってくれー!」

・リレハンメルオリンピックジャンプ団体で金メダルをほぼ手中に収めていた日本だったが、最終滑走者の原田の失速によって、金メダルを逃し、そのことによって原田は、激しい批判の矢面にさらされることとなる。その後大スランプに陥ってしまったのだが、4年後の長野オリンピック前には復調し、メダルが期待される選手として長野オリンピックの舞台に立った。しかしノーマルヒルではまたしても2回目に失速し、メダルを逃してしまっていた。
そんな中で迎えたラージヒルの2本目での大ジャンプ。工藤アナの気持ちのこもった実況が印象的である。因縁の2本目での逆転銅メダル。原田が4年前の呪縛から解放された瞬間でもあった。

1998年長野オリンピック ジャンプ団体
和田源二アナ
「今度は高いか?高い!高くて、高くて、高くて、行ったー!」

・上記のラージヒルでの銅メダルで4年前の呪縛から解放されたかに見えた原田だったが、金メダルが確実視されていた団体戦では、1回目に天候にも恵まれず、飛距離を伸ばすことが出来なかった。全てを賭けた2回目での大ジャンプ。和田アナの端的でありながら、気持ちを乗せた実況は、これまでの原田の歩みも重なって感動的なものとなった。

2006年WBC準決勝 日本ー韓国
松下賢次アナ
・「生き返れ、福留!」

第1回WBCは、アメリカ戦での誤審騒動や当時はまだ格下と思われていた韓国戦での連敗など、様々な出来事があった非常に濃密な大会となった。何とか準決勝に進出した日本ではあったが、ここで韓国に負けるとなると、日本球界が大きなダメージを負うことは間違いなかった。そんなゲームでここまで不振だった福留が0-0の7回に代打で登場する。ここで福留は2ランホームランを放ち、勝利に貢献するのが、その直前に松下アナが実況した言葉が上記の「生き返れ、福留!」である。その言葉を言ったと同時に飛び出した福留の2ランホームランは、松下アナの言葉も相まって記憶に残るものとなった。

1988年 「10.19」近鉄ーロッテ
安倍憲幸アナ
「This is プロ野球!」

・伝説のダブルヘッダー「10.19」の第2戦。4-4で迎えた9回表、近鉄新井の三塁線へのあたりをロッテの水上がダイビングキャッチで止め、一塁へ見事な送球でアウトにした場面で飛び出したのが上記の「This is プロ野球!」である。抜けていれば、近鉄がリーグ優勝に大きく近付く場面で飛び出した水上のスーパープレーに対する最高の誉め言葉である。
このゲームはニュースステーションの放送内で中継しており、キャスターの久米宏氏が安倍アナの実況を受けて、「This is ニュースステーションであります。」と茶目っ気たっぷりに返した場面も印象的である。私は、ドキュメンタリー番組などでこの場面を目にしたのだが、当時の興奮が伝わる実況であると感じる。

2007年箱根駅伝往路
河村亮アナ
「今、山の神、ここに降臨。その名は、今井正人!」

・順天堂大学の山上りと言えば、今井正人であり、05年、06年と他を圧倒する走りで2年連続区間賞を獲得していた。その今井が最終学年となった07年の箱根駅伝でも5区で快走し、襷をもらった時点で5位だった順位を徐々に上げていき、最終的に往路優勝まで持っていった走りを称した名実況である。特に「山の神」というフレーズが特徴的である。これほど当時の今井のことを上手く表現した言葉はなかったのではないだろうか?

上記6つの実況は、選手とアナウンサーの言葉がシンクロしたタイプの名実況ではないだろうか?名実況の中には、プレー中の言葉だけではなく、番組のオープニングやエンディング、試合が止まっている時に発せられるタイプのものもある。その中で私が好きなのは、NHKの山本浩アナウンサーの言葉である。

1985年サッカーW杯メキシコ大会アジア最終予選 日本ー韓国
山本浩アナ
「東京千駄ヶ谷の国立競技場の曇り空の向こうに、メキシコの青い空が近づいてきているような気がします。」

・まだ日本代表がワールドカップを知らなかった時代。最もワールドカップに近付いたメキシコ大会アジア最終予選韓国戦、冒頭でのアナウンス。私はリアルタイムではこのゲームを知らない世代なのだが、詩的な素晴らしい言葉だと感じる。

1993年Jリーグ開幕戦 横浜マリノスーヴェルディ川崎
山本浩アナ
「声は大地からわき上がっています。新しい時代の到来を求める声です。総ての人を魅了する夢、Jリーグ。夢を紡ぐ男たちは揃いました。今、そこに、開幕の足音が聞こえます。1993年5月15日。ヴェルディ川崎対横浜マリノス。宿命の対決で幕は上がりました。」

・当時小学生だった私は、Jリーグの開幕に夢中になっていた。1993年5月15日は、中継開始から終了までNHKの中継を見ていた。山本アナの言葉で更に高揚感が高まったことを覚えている。

1997年サッカーワールド杯フランス大会アジア第三代表決定戦 日本ーイラン
山本浩アナ
「このピッチの上、円陣を組んで、今、散っていった日本代表は、私たちにとって『彼ら』ではありません。これは、私たちそのものです。」

・山本アナの数多くある名実況の中で私が最も好きなのがこの言葉である。実は、当時私はBSでテレビ視聴できる環境がなく、リアルタイムでは山本アナのこの実況を聞けていないのだが、後から聞いてもグッとくる言葉だった。延長戦前に日本代表が円陣を組んでいる際に発せられた言葉なのだが、幼い頃からスポーツ観戦が大好きだった私にとって、「これは、私たちそのものです。」という言葉で「しっかりテレビ観戦しなくては。」、「私も一緒に戦わなければ。」という思いになったものである。ドーハの悲劇から4年が経過し、サッカー日本代表が苦しみながらもワールドカップに近付いていた場面で発せられた一言は、当時の空気感と相まって極上の言葉となって視聴者の胸を打ったのではないだろうか?

1998年サッカーワールド杯フランス大会一次リーグ第1戦 日本-アルゼンチン
山本浩アナ
「声は届いています。はるか東の方から、何百万、何千万もの思いが、大きな塊になって聞こえてくるようです。遠かった道のりでした。本当に遠かった道のりでした。日本の、世界の舞台に初めて登場するその相手はアルゼンチン。世界が注目するカードです。」

・ようやく日本がたどり着いたワールドカップの夢舞台。その初陣で日本サポーターの想いを言葉に乗せてくれた。この言葉を聞いただけで涙を流した、流しそうになった視聴者の方も数多くいたのではないだろうか?

1998年サッカーワールド杯フランス大会一次リーグ第3戦 日本ージャマイカ
山本浩アナ
「振り返らずに歩く道です。スタンドの波打つ音が聞こえてきます…芝の匂いがしてきます…そこに広がるのは、私たちの20世紀を締めくくる戦場です。リヨン、ジェルラン競技場。日本はここで終るのではありません。自分たちの明日に、私たちの2002年につなぐ90分間にしなければなりません。ワールドカップ第3戦、日本対ジャマイカ。勝つために戦います。」

・アルゼンチン、クロアチアに連敗し、すでに一次リーグ敗退が決まっていた日本代表だったのだが、そのゲームのオープニングで山本アナは、上記のように言葉を紡いだ。決して後ろ向きにならずに、前向きな言葉を並べるとともに、「勝つために戦う。」ことを明確に伝えてくれた。この言葉で改めてスイッチが入った視聴者の方も多かったのではないだろうか?

1999年1月 第78回天皇杯決勝 横浜フリューゲルスー清水エスパルス
山本浩アナ
「私達は忘れないでしょう。横浜フリューゲルスという、非常に強いチームがあったことを。東京国立競技場、空は今でもまだ、横浜フリューゲルスのブルーに染まっています。」

・この大会を持ってチームが消滅することが決まっていた横浜フリューゲルスは、天皇杯で快進撃を見せ、最後に優勝して有終の美を飾った。その中継のエンディングで山本アナは上記のように言葉を紡いだ。横浜フリューゲルスが無くなってしまう哀しさも相まった中で、この言葉には重みを感じたものである。

山本浩アナのサッカー中継でのオープニングやエンディングでの言葉は、やはり印象的なものが多い。もちろん一言一句暗記している訳ではないのだが、改めてネットで実況を確認してみても、心に響く言葉が数多くある。テレビの視聴者が試合開始前に高揚感を感じるような、また放送終了直前に余韻に浸れるような言葉の数々は、ファン、サポーターの心に刺さるものである。文字を見ただけで脳内で山本アナの声が聞こえてくる。そんな名実況ばかりである。

基本テレビ観戦が主だった私にとって、アナウンサーの存在というものも非常に大切な存在である。皆さんも記憶に残る名実況があるのではないでしょうか?

P.S ちなみにスポーツバラエティ番組での実況という意味では、古舘伊知郎アナの実況が大好きである。「スポーツ№1決定戦」、「筋肉番付」、「SASUKE」などで速射砲のように言葉を紡ぎ続ける技術は唯一無二だと思っている。




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