思い出ショートショート㉕
私が陸上競技を見始めた時の男子100mの日本記録保持者は井上悟だった。まだまだ世界のスプリンターとは大きな差がある時代だったのだが、そんな時代でも男子100mは、トラック種目の花形であり、井上も日本陸上界の中では、知名度の高いランナーだった。
日本記録を更新した時はまだ日大に在籍しており、20歳そこそこの小柄なスプリンターの小気味の良い走りに子どもながらに惹かれていった。
井上の最大の特徴と言えば、そのスタートダッシュの速さである。スタートから30m辺りで明確にリードを奪い、そのまま逃げ切るのが必勝パターンとなっていた。後に200mでも日本記録を更新したことからも分かるように決してスタートだけの選手ではなかったのだが、個人的には井上のスタートダッシュに大きな魅力を感じていた。小柄ながらそのアジリティの高さを活かし、どの選手よりも早くトップスピードに乗せることが出来、スタート直後にアドバンテージを取ってみせた。世界大会でもそのロケットスタートは通用しており、予選であれば9秒台の持ちタイムを持っている世界のトップランナー相手でも40~50m辺りまではリードを奪う場面も何度も見させてもらったように記憶している。50m以降は、世界の壁に跳ね返されてしまい、オリンピックや世界陸上で大きな成果をあげたとは言い切れないのだが、一瞬でもトップに立ってくれる井上の走りは魅力に溢れていた。その後大型で和製カール・ルイスとも呼ばれた朝原宜治の登場で日本短距離界のトップランナーが入れ替わった印象があるのだが、井上は井上で当時としては息の長い活躍をし、日本短距離界を引っ張っていってみせた。
当時の若者らしい雰囲気も華を感じたし、小柄な体格で世界と戦う姿に魅力を感じた。他のランナーを焦らせるような見事なスタートダッシュの映像が脳裏に焼き付いている。
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