晩成型の名投手ジェイミー・モイヤー

私は、決してメジャーリーグ通という訳ではないのだが、野茂がドジャースでデビューした際のチームメイト、イチローがマリナーズでデビューした際のチームメイトに関しては、何となく記憶に残っている選手が多い。ジェイミー・モイヤーは、イチローがマリナーズに入団した際のマリナーズのエースである。ひょろっとした体型のサウスポーで当時すでに年齢は38歳というベテラン投手だった。当時のメジャーリーグの中継を見ていて驚いたのが、各投手の球速である。ヤンキースのマリアーノ・リベラに特に感じたのだが、テレビ中継を見ていて、明らかに変化しているボールの球速が150キロを超えていることに驚愕したものである。こんなスピードで変化球を投げることが信じられなかった。しかしこのジェイミー・モイヤーについては、違う意味で驚かされた。他の投手に比べて明らかに球速が遅いのである。おそらくほとんどのボールが130キロ以下の球速だったはずである。その130キロに届かないフォーシームとスライダー、チェンジアップ、カーブ、ツーシームなどを組み合わせて、相手野手を打ち取って行く姿は痛快だった。
99年にイチローがマリナーズのキャンプに招待されたことがあったのだが、その時私は、密かに一緒にキャンプに参加したオリックスの星野伸之に注目していた。130キロに届かないストレートと大きなカーブ、フォークで勝負するスタイルがメジャーの選手にどこまで通用するか楽しみだったからである。しかしその星野は、実戦で滅多打ちにあってしまい、メジャー関係者にアピールすることは出来なかった。当時はまだ日本人野手が1人もメジャーに挑戦していない時代であり、個人的にはもしかするとイチローよりも星野の方が通用する可能性もあるのではないか？とさえ思っていたのだが、そんな期待は打ち砕かれてしまった。やはり投手にとって球速というものは必要なのだな。と感じたのだが、そのマリナーズに星野と変わらない球速帯で結果を残している投手がいたのである。それがジェイミー・モイヤーだった。
各球種で球速差を付けながら、また内外角のボールの出し入れを行いながら、各打者を抑え込んでいく技巧は、見事なものだった。ストライクからボールになる変化球、ボールからストライクに入れてくる変化球の使い方は巧みだった。このスタイルでモイヤーは、35歳頃から投手としての全盛期を迎え、多くの勝ち星を積み上げることとなった。
30歳までは通算46勝の投手だったのだが、33歳のシーズンにレッドソックスと移籍したマリナーズで合わせて13勝を記録すると、翌年、34歳となるシーズンには17勝を達成する。
35歳シーズン以降の成績は下記の通り

35歳　15勝9敗　　防御率3.53
36歳　14勝8敗　　防御率3.87
37歳　13勝10敗　防御率5.49
38歳　20勝6敗　　防御率3.43
39歳　13勝8敗　　防御率3.32
40歳　21勝7敗　　防御率3.27
41歳　7勝13敗　　防御率5.21
42歳　13勝7敗　　防御率4.28
43歳　11勝14敗　防御率4.30
44歳　14勝12敗　防御率5.01
45歳　16勝7敗　　防御率3.71
46歳　12勝10敗　　防御率4.94
47歳　9勝9敗　　　防御率4.84
48歳　登板なし
49歳　2勝5敗　　　防御率5.70

何と35歳から引退までに180勝を積み上げている。防御率が安定しないシーズンもあるが、先発として毎年コンスタントに30試合以上のゲームに登板し、しっかりイニングを喰い続けることが出来たのだから立派である。引退して10年以上が経過し、今の若い世代にはあまり知られていない投手かもしれないが、こういった遅球の技巧派タイプの晩成型サウスポーがいたことを記しておきたくなった。

そしてヤクルトファンとしては、どうしてもベテラン技巧派サウスポーである石川と比べたくなってしまう。中6日でローテを回ることは難しくなっているが、もう一度勝ち星を積み上げる姿を見てみたい。
ちなみに石川の35歳からの成績は下記の通りである。

35歳　13勝9敗　防御率3.31
36歳　8勝8敗　防御率4.47
37歳　4勝14敗　防御率5.11
38歳　7勝6敗　防御率4.88
39歳　8勝6敗　防御率3.84
40歳　2勝8敗　防御率4.48
41歳　4勝5敗　防御率3.07
42歳　6勝4敗　防御率4.50
43歳　2勝5敗　防御率3.98

こう見てみると悪くないのだが、やはり登板数、イニング数が全く違うため、その分勝ち星も減ってしまう印象である。改めてモイヤーの偉大さが浮かび上がってきた。

過去記事はこちらから
・石川の芸術的ピッチングに酔いしれる（一旦酔いが醒めましたが…） | ヤクルトファンの日記 (ysfan-nikki.com)